* bookmarker's bookshelf *

☆4040の本棚☆ 文庫とミステリに偏っている私的な読んだ本のおぼえ書きです。

「クレィドゥ・ザ・スカイ 」

「森先生、やっぱりわかりませんでした」


「スカイ・クロラ」シリーズ、第5巻「クレィドゥ・ザ・スカイ」です。

〜Cradle the Sky〜

クレイドルの意味はゆりかご。

 スカイ・クロラシリーズは全5巻+番外1巻。「スカイ・クロラ」から読み始め、「クレィドゥ・ザ・スカイ」が最終巻。しかし、時系列で並べると4番目で、最終巻が「スカイ・クロラ」になる。
 この作品の素晴らしさは、その詩的で静謐な空気と、大人とは、こどもとは、自由とは何かを問いかける深いテーマと、そしてすべて読んでも解けない謎である。

 本巻の最大の特徴は、最大の難問でもある。主人公(視点)である「僕」が誰か分からないのである。これは草薙ともとれるし、クリタともとれるし、カンナミともとれるのである。

 この「僕」は何らかの事件か事故で入院しており、自分が誰なのか、記憶が曖昧になっている。病院を抜け出し、娼婦のフーコとしばらく過ごした後、研究者の相良のもとに向かう。相良のところでかくまってもらうのであるが、彼女自身も警察に監視される立場だった。相良はキルドレを使った戦争に反対し、キルドレから普通の人間へ「僕」を戻したがっていると見られる。「僕」は自分の記憶や、空を飛ぶ空想の間をゆらりゆらりとした状態で、目的もなく逃げている。

 詩的で美しい飛行シーンは2回のみ。どちらも本来の戦闘の場ではない。「僕」は自分がどのような歴史を持った何者なのかという記号を持ち合わせていない状態だ。ただ、自分は空を飛び、踊り、誰かを打ち落とすか、自分が落ちるか、その役割としての自分しか持っていない。自分がもう飛べないかもしれないという状態の中、飛んだこの2つのシーンはまさに体が覚えているという感じで空を飛んでいる。

□キルドレ〜「大人への自己成長を拒み、子供としての自己実現を目指して破綻していく」(押井守)

 キルドレとはどんな存在か。ただ器が子どもで精神が大人というわけではない。薬によって生み出され、戦闘のために「利用」されている、そして寿命がない。作中の世界では、キルドレによる戦争をおこすことで、一般の人々に戦争の醜さを知らしめるという機能があるらしい。そう考えると、キルドレは大人の都合で利用される犠牲者である。ソマナカの科白で「ずっとずっと誇り高い勝利者なんです。犠牲者は我々大人のほうだ」とある。普通の人間の生活や幸せと格別し、一定の狭い組織の中で、死と隣りあわせで生きるというと、不自由のきわみのようであるが、彼らにとっては、普通の社会で縛られ、かといって反抗もせずねちねちと生きる大人たちのほうがよっぽど不自由なのである。空を飛ぶという役目のなかにこそ、自分達の確固たる生きる道を見つけたという点で、キルドレは大人とも、大人に左右されるか、どこにも飛び立てない子供よりも自由な存在なのかもしれない。
 映画を撮る押井守監督のあとがきを是非読んで欲しい。ぼやけていたキルドレ像がすこし浮かび上がってきた。
 
□謎
 シリーズをずっと読んできて、この作品で何かがクリアになるかと思っていたけれど甘かった。新たな謎が浮かび、そしてすべての謎を解く鍵がこの巻に集まっていると思う。でも、明確な答えがでない、そして出なくてもいいと思わせるのが森さんの作品の魅力でもある。ただ自分に読解力がないだけなのかもしれない。とても気になるけれど・・・。

 私が持った印象は、草薙とクリタ、そしてカンナミは同一人物なのではないかということ。「四季」みたいな多重人格というか、長く生きるキルドレであるため昔の記憶は処理されるか、組織の力で新たな人格を植えつけられるかしたんじゃないかと思ったのだ。この本の「僕」にも、エピローグのカンナミの心にも、草薙のコードネームを呼ぶ、「ブーメラン飛んでいるか?」の声が聞こえてくるし、「スカイ・クロラ」の三ツ矢の「クリタが死んでカンナミになった」という発言も気になる。
 しかし、草薙とクリタ、草薙とカンナミはそれぞれ別の人物として出会っているのである。矛盾だらけである。どこかで人格を統合されてしまったとか都合のよい話でもあるまい。文章のどこかで「僕」の視点が変わっているんだろうけれど、何処で変わっていても、3人のうちの誰かに思えてはっきりしない。

 謎を挙げれば枚挙にいとまがない。
普通のミステリなら、詳細まで判明するところだけど、他の「森ミステリ」ですら同期など謎が明かされないまま終わるくらいだから、この神秘的な作品は謎をふくんだままでも仕方がないのかもしれない。
4040の頭ではもう追いつかないので、謎解きは他のサイトさんを見せてもらって楽しませてもらおう。

 魂から空を舞うことを愛し、飛び続けたいと願っていた草薙。しかし、「スカイ・クロラ」では、人生を見失い、疲れ果てた姿に見える。代わりに登場したカンナミは、他の3巻で草薙がそうだったように空に恋焦がれ、美しく飛んでいる。どんな形かはわからないけれど、この2人の精神はどこかで繋がっているのだと思いたい。

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最近のお気に入りは、梨木香歩さん、森博嗣さん、伊坂幸太朗さんです。
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