「蒲公英草紙―常野物語」
以前読んだ「光の帝国」とおなじ「常野」という不思議な一族が登場する長編小説。
穏やかな田舎の情景と真摯な人々がでてくる話だけれど、そこに、戦前の厳しい自然と戦争の影がゆっくりと近づいてくる切ない作品。
『蒲公英草紙』は、主人公である峰子が書いている日記。おっとりとした峰子が美しく、もうもどることができない少女時代を回想している。
時は日露戦争前か、日本が世界に立ち向かい、血気と不安が広がる時勢。東北の小さな農村で、その村を支える槙村家には、一人娘・聡子がいた。体が弱く、外出もできない彼女の相手を峰子はすることになった。旧家のお嬢様で、体が弱い聡子であるが、ひがんだところはいっさいなく、聡明で優しく、そして美しい。峰子は、聡子や、その兄の廣隆、画家の椎名や永慶などと美しい田舎でゆっくりとした時間を過ごしている。
そこに「春田一家」が槙村家の客人として現れる。穏やかだけど、どこか常人とはなにか違う秘密を隠しているような不思議な一家。『光の帝国』を読んでいれば分かるが、彼らこそ『常野一族』である。春田一家は人の記憶・歴史を「しまう」特殊な能力を持っている。どうやらサイコメトリー的な能力も持っているようだ。
最初はその能力を隠している彼ら。しかし、不思議な出来事が起こるなか、槙村家と「常野」、そして聡子と常野には大きな関係がわかってくる。
「常野」という超能力的な力を持つ人々が出てくる話だけれど、おもしろおかしく力を発揮して活躍するはなしではない。人の悲しみを和らげる力でもあるけれど、世間の風当たりが強かったり、厳しい役目を負っていたり、切ない場面が多い。
幸福なときは続かない。戦争はそれを奪う。悲しみのふちにいる主人公はその後力を取り戻せただろうか?



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