☆4040の本棚☆ 文庫とミステリに偏っている私的な読んだ本のおぼえ書きです。
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2009.08
29
(Sat)


 小説は視覚情報がないので、書いてあることから登場人物や風景を思い描きながら読んでいく。そして、往々にしてだまされるのだ。「え、そんなの書いてなかった!」。書いていないけれど嘘はついていない。だからだまされているわけではない。勝手に読者が思い込んでいただけ。
そういう性質があると分かった上で、この本は読みました。
 「葉桜の季節に君を想うということ」というしおらしいタイトルですが、なかなかファンキーな主人公が、老人に対する詐欺集団に立ち向かう話であろ、恋愛も混じっている話です。主人公成瀬将虎は知人から、家族が詐欺にあったあげく、疑惑の事故死をしたということで相談を受ける。郊外の集会所に人を集めてモノを売りつける「霊感商法」をするその集団は、目をつけた老人に巧妙に取り入り、保険金殺人を犯す最悪の集団なのである。
 線路に飛び込もうとしていた麻宮さくらと「運命的な出会い」を果たした将虎は、さくらとの逢瀬と事件の調査を並行しながら、だんだん悪の組織の真髄に迫ってく。

 ここまできたらだまされないほうがおかしい。
ラストは圧巻です。とある登場人物が組織の人間であるということが分かってきますが、この本の「だまされた」はそこではないのです。そこから先はいえません。注意して呼んでも無駄です。フェアじゃないかもしれませんが、最後まで読んで、驚いてもう一度読む。それがこういう本の楽しさだと想います。
 
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2009.08
12
(Wed)

「始祖鳥記」 


飯嶋 和一
Amazonランキング:104825位
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本町の紀伊国屋の一角に「飯嶋和一」のコーナーがありました。パネルと、その横には編集者が作った「飯嶋和一の読み方です」という、彼の作品をどの順番で手に取ったらいいかが説明されたチラシ。初めて聞いた作家で、こうやって目に留めなければ、自ら興味を持って手に取ることはなかったでしょうということで買ってみました。

19世紀、江戸時代の備前(岡山)にいた、備前屋幸吉という「空を飛ぶこと」に魅入られた男の話です。幸吉は備前の八浜という町で生まれ、若くして表具師として名を馳せます。昔から芸術的なセンスを予感させる子どもであり、イソップ物語に非常に興味を持ち。鳥寄せにたけているなどの特技がありました。その幸吉は、鳥のように空を飛びたいという願望を持っており、鳥の体の構造を調べ、大凧を作っては、屋根から飛び降り、飛行を図る実験を繰り返します。今で言う「グライダー」を日本で始めてつくった実際に伝承が残っている人物なのです。

 当時、このようなことをするのは、奇人。奇人で話が終わらないのがこの話のすごいところ。岡山城下は衆愚政治により産業・商業は衰える一方で民の不満は最高潮でした。そこに謎の怪鳥の噂が出ます。その空とぶ人間の噂は、ひいては政治の不満を訴える存在として民から尊敬され、鬱憤を晴らしたい市民を暴徒と至らしめようとしていました。役所は当然、民を扇動するものとして捕まえにかかります。そう、ただ飛びたかった幸吉の行為は、とんでもない騒動に発展します。

 2章では、岡山を離れた幸吉が、幼馴染の廻船に乗り、旅をする数年間が描かれます。江戸では、塩の流通を、一部の問屋と役人が握り、粗悪な塩が高値で売られ、塩商人たちがその悪政にあえいでいました。遠い備前の国で「処刑された」悪政を訴えた勇敢な空飛ぶ男に励まされ、政府の目を欺き、新たな塩の流通ルートを作ろうとした、塩問屋の若旦那と、それに加勢した船乗りたちの熱い話です。

 3章は、船を降り、木綿問屋を営む幸吉が描かれます。表具師と航海で培った技術で、商いをそつなくこなす幸吉。そこによく飛ぶ「凧」の製作依頼が舞い込み・・・。

 話は2つの面を持っています。ひとつは、江戸時代末期の腐敗した幕府体制にあえぐ市民と、それを打開しようと画策する人々の姿です。2章の塩にまつわる騒動は、書き込みが詳しくて、作者の調査に驚愕です。はらはらと、浪漫を感じるテンポのよい話です。
 もうひとつの面は幸吉の人生です。空を飛びたいと思った若い幸吉は天才でした。天才がやることは周りが理解できず、狂人に見えます。一般社会の常識にはまれぬ、窮屈さを感じる幸吉。しかし、年を経て、若い自分は受け継がれてきた表具師の名から飛び出したかったのだと感じます。自分の力を生かした生業で、堅実に生きる日々。表具師を捨て、海の男にはなれず、堅実だが、なにか強い信念を持ち国を変えようとするものたちともちがう。そんな幸吉に安心を感じる一方、物足りなさを感じてしまいます。「空を飛ぼうとした男の話」はどんどんスケールが大きくなり、どこに行き着くのだろうとただページをめくりましたが、最終的には、幸吉の忘れていた「空を飛びたい」という夢に行き着きます。

 江戸時代に、時代より先にいってしまった一人の男の冒険奇譚。長いですが、つかみどころのなかった幸吉が、徐々に気に入ってくるのが不思議で面白い話です。
2009.08
07
(Fri)

「さがしもの」 


角田 光代
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「この本が、世界に存在することに」という題名でもともと発刊されていた、本にまつわる短編集。

角田さんが、作家だから当たり前という感じではなく、ごく自然に本が好きなのだと愛情が伝わってきます。最初は角田さんのエッセイかな・・?と思ってしまうほど、日常の中や恋愛の中にポンと存在する本と登場人物のかかわりが書かれています。
「旅する本」は、昔読んだ、紛れもなく自分が売った本が、世界各地の古本屋で何度も目の前に現れるという話。舞い戻る感動もさながら、読むたびに違う感覚を得る驚きは体験してみたいもの。
他にも、旅館においていかれた本に、元の持ち主の人生を思う話や、人々の記憶が書き込まれた「伝説の古本」にまつわる話などが。私は、買った本は手放さないのですが、旅をさせるのも、また一興だなぁと思いました。(ブック○フじゃ味気ないかな。できればいろんな人の手を渡る方法がいいな)

表題作「さがしもの」は、余命わずかの祖母から探してほしいといわれた1冊の本を孫が探し続けるはなし。大型書店から古本屋まで探す中で、少女にとって本がなくてはならない存在に。そして何年もたってようやくその1冊にめぐり合います。

「だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう」

というその祖母の台詞があります。本は自分の見知らぬ土地、考え、体験、人生を体験したかのような気分になる、お得な存在です。ただ、私は、どこか違う世界に連れてってくれるという感覚はあまりないのです。おもしろい、かっこいい、怖い、考える、とりあえず普段の思考をシャットダウン、すばらしいストーリーをつむぎだす作者に感嘆する。あらためてなぜ本が好きなのだろうと考えてみたけれど、ただ「おもしろいから」というほか言いようがないのです。
2009.08
01
(Sat)

「ベーコン」 


井上荒野
Amazonランキング:21798位
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 食べ物がモチーフになっている話がたまにありますが、なぜか気になってしまいます。
江國さんの作品では、とにかくおいしいものをじゃんじゃん食べるのが好きな恋人たちを描いた短編がありました。筒井 ともみ の「食べる女」という本もありましたね。それと、川上弘美の「先生の鞄」は、もう食事とお酒が本当においしそうで・・・。(愛の話でしたが)。一番好きなのは宮部みゆきの「初ものがたり」も。江戸時代が舞台なのですが、素朴だけどすごく食べ物に惹かれます。

 「ベーコン」も食べ物と女と男の愛情を描いた短編になっています。
愛情を感じたとき、失ったとき、記憶と一緒に残った食べ物たちが添えられています。比較的、不倫をしている人や、パートナーから別の人のもとへ行こうとしている人、別の人が気になっている人たちなどが登場します。普通のしあわせではなくて、ちょっと強がったり苦い思いをしている人たちばかり。そこにさりげなく、でも鮮やかに食べ物が現れる。
あとがきで、井上さんの小説は「ふりをしている」人々が書かれていると書いてありました。(あまり深く考えずに読んでしまうのであとがきの言葉を借りますが・・・)
確かに、周囲や自分の気持ちに嘘をついているさまざまな人がでてきました。先に書いてしまいましたが、どんな「ふり」をしているのだろうと考えて読んでみてもいいかもしれません。

不倫やうまくいかない愛情の本は、がっつり長編だと苦手ですが、もうちょっと読みたいなと思わせるくらいの、これくらいのボリュームがちょうどいいですね。

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4040です*
最近のお気に入りは、梨木香歩さん、森博嗣さん、伊坂幸太朗さんです。
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