「密やかな結晶」
一つ一つあるモノの記憶と、そのもの自体が「消滅」してしまう島。
そういう小川さん特有の雰囲気を持つ作品です。前に読んだ「沈黙図書館」と同じように、日本であるようで異国でもあるようであり、現代のようでもあり、現代社会ではないような場所が舞台。
人の記憶と、狂気めいた愛が見え隠れする作品です。
島では、朝突然、人々の元に「消滅」が現れる。消滅が起こると、そのものの記憶を一切失ってしまうことになる。消滅が始まったものは一切捨ててしまうのが島の人たちのきまりごとである。最初は名残惜しくも、2・3日も経てばその記憶さえ消えてしまうので、人々は諦めている。
たとえば「鳥」の消滅。朝のさえずり、空を駆け巡るその姿、人々は一切の記憶をもたなくなる。「バラ」の消滅では、花弁が川に流され、川は1日中花弁であふれかえった。花との別れを惜しんでいても、しだいに、バラに対する思い入れや美しいと思う心を失い、完全に忘れてしまう。その光景は綺麗であるはずであるけれど、想像すれば悲哀に満ちているのではないかと思う。
そういう寂しい島が舞台だ。
主人公の女性は島には少ない小説家だ。何かが消えてしまうことを題材とした小説を書いている。
彼女の死んだ母親は、今思えば「記憶がなくならない」特殊な人物だった。消えてしまったもの―例えば、エメラルド、香水など―の話をしてくれた。異国の不思議なお話のようであるが、記憶がない彼女の心には訴えてくるものがない。
「記憶がなくならない」人々はたくさんいて、「秘密警察」の手によりどこかへ強制連行されていく。連行は日々激しさを増していく。
編集者のR氏もその一人である。彼女は、消滅してしまった「フェリー」乗りだったおじいさんとともに、彼を匿うことにするが・・・・。
最近、アンネの日記に関する本を出された小川さん。「秘密警察」の存在は、ナチスのゲシュタポのような存在にも思え、意識して欠かれたのではないかと解説に書かれていた。
少ない読書暦の私は、エンデの「モモ」に出てくる「時間泥棒・灰色の男」をなぜか思い出してしまいました(^^;)秘密警察が、なぜ消滅を完璧なものにしようとしているのか、秘密警察が消滅を起こしているとも考えられないのでそのあたりは謎。そういう謎であるところが似ているような・・・気が・・・しました。消滅していく町も「灰色」っぽいイメージが・・・。
彼女は「言葉」がなくなってしまえばどうなるのだろうという漠然とした不安を持つ。言葉がなければ小説をかくことができない。そういうことからか、彼女の書く小説は、言葉を失いタイプライターで恋人との会話を行う女性の恋愛を描いたものとなる。
小説では、女性は男性に閉じ込められて暮らすことになる。女性は声を奪われ、身体だけが残り、そして消滅する。逆に彼女の世界では、彼女は、R氏を匿うということで閉じ込める。しかし、消滅により身体を奪われ、最終的に「声」だけが残る。そして、消えないR氏によって消えてしまった宝とともに地下室に閉じ込められてしまう。
小説と対比されているというか、結局彼女も、彼女の書く主人公も、男性のもとから消え去ってしまうという物悲しさが、なんともいえませんでした。
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