「赤い長靴」
ひさしぶりに江國さんの作品を読みました。文庫になると買うんですが、なかなかならないので図書館で借りました。
内容とは関係がありませんが、表紙の絵が不思議で奇妙でいいですね。
羊のような獏のような四肢の動物が円形にならんで歩いている。
転がっているものもいて、虫のようでもあります。
エッシャーみたいだなと思いましたが、井上信太さんの「群像」という絵だそうです。
装丁はいいとして、「赤い長靴」は短編小説からなりたつひとつの長編小説です。
夫婦の話です。
そこには暖かい家庭もなく、熱烈な愛情もなく、喧嘩や憎悪や不倫・浮気といった危機的な状況もありません。少し冷めた、微妙な温度で漂う夫婦の姿が描かれています。
妻の日和子と夫・逍三の間には子どもはいません。
仲が悪いわけではないのですが、意思疎通がうまくいっていない様子です。
仕事から帰ってきた夫に、日和子はその日にあったことをつとつとと話します。(日和子はおしゃべりずきのうるさい女ではなく、おっとりとした女性です)。
しかし、夫からの反応はありません。
たまに帰ってくる返事は「うん」。
ご飯や飲み物のこと、承諾に関しても、質問をYESで答えられるものにしなければ、返事は来ず、全く違うことを切り出されます。逍三はあまり話を聞いていないのです。日和子に興味がない、ほかに女がいるというわけではないのですが、そういう性質の男のようです。
伝えたことが全く伝わらない、もどかしい感じがとてもこんな夫婦は嫌だと思ってしまいます。
しかし、そんな態度に頭にくることがある日和子ですが、「あなたっておもしろいのね」と、諦めというか許してしまうのです。逍三に関しても、家からたまに開放されたいなと思ってみても、会社や外の人間とつきあうのにはすぐ疲れてしまい、結局は日和子がいる家に安堵をいだいているようです。
なんとも日々のやりとりにいつまでたっても慣れない二人が、たんたんと暮らしていく風景が、大逆転や危機、山場を乗り越えていくことなく過ぎていく。そして、微妙な感覚を持つ女性が出てくる、江國さんの小説らしい小説でした。
そのため、はっきりとした恋愛小説が好きな方にはオススメできないかもしれませんね。
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