「麦ふみクーツェ」
はじめて,いしいしんじさんの作品を読みました。
外国の童話みたいな不思議な世界の話でした。こども向けかと思いましたが、むしろ大人が読んだほうがこの世界観を面白いと感じられるかもしれません。
主人公の「ねこ」と呼ばれる男の子は、小学生なのに大人よりもはるかに大きい身体を持ち、学校では友達もおらず、自分に非常におおきな劣等感を抱いた男の子です。彼の父親は数学の先生ですが、能力以上の問題をずっと取り組み続け、数字に幻想を抱く変わった人。おじいちゃんは、町の吹奏楽団を率いる打楽器奏者で、音楽にとことん厳しい人物です。ねこはおじいちゃんにみっちり音楽を教えられて生きています。
彼には母親がいません。ねこは自分が母親のおなかを破って生まれたせいで、母親が死んでしまったのだと罪の意識にさいなまれています。
そんな彼の、心の支えのような存在が「クーツェ」です。
ある晩現れた謎の小人「クーツェ」はいつも「とん、たたん」と一定のリズムを刻みながら黄色い大地を踏みしめています。ねこにはふと瞬間にクーツェが現れたり、頭の中で足ふみの音だけが聞こえたりするのです。
話は、ねこが、吹奏楽の指揮者を目指しながら、自分の劣等感を乗り越えていく流れになっています。
こう書いてしまうと、普通の素晴らしい努力をたたえる小説みたいですが、いしいさんの書く世界はとてもユニーク。クーツェの存在もそうですが、ねこが出会う、普通の人とは違う感覚を持った人たち、例えば、用務員さんや、盲目のボクサーやチェロリストの先生、色盲である「みどり」。なんともへんてこな人も中にはいますが、なかなか憎めない存在なのです。一風変った彼らと接することで、ねこは、最初は世の中に適応できなさそうな、不安げな少年でしたが、劣等感を乗り超える力をもって音楽を体現できるようになっていきます。
この音楽も実にユニークで、「殴りあうこどものためのファンファーレ」や、「なげく恐竜のためのセレナーデ」「赤い犬と目のみえないボクサーのワルツ」など、なんとも愉快そうなものばかり。一度「食べてみたい」と思う話の中の食べ物はよくありますが、「聞いてみたい」話は初めてでした。
話の中ではぽんっと「ありえない」できごとや人物も現れます。「やみねずみ」や、恐竜などの伝説、「とりつかれ男」もそうです。「とりつかれ男」は別に小説にもなっています。
サイドストーリー的な登場人物や、世界のスクラップ記事の内容は、外国の楽しい御伽噺のようで、そこの世界も覗いて読んでみたくなる感じがしました。
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