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☆4040の本棚☆ 文庫とミステリに偏っている私的な読んだ本のおぼえ書きです。

「絵描きの植田さん」

寂しさで閉ざした人の心を溶かす、雪国のものがたり。


いしい しんじ, 植田 真 / 新潮社(2007/11)
Amazonランキング:96777位
Amazonおすすめ度:



 いしいしんじさんの作品で「絵描きの植田さん」の文庫版です。
タイトルと同じく、表紙や、最後の挿絵は画家の植田真さんによるものです。
繊細で暖かく、かわいらしい絵なので、女性が好きなのではないでしょうか。

 この植田さんとは違いますが、主人公は絵描きの植田さんです。
彼は火事(?)で妻を亡くし、その事故で植田さん自身も耳がほとんど聞こえなくなっています。とある雪国の「湖の向こう側」に移り住んで、ほそぼそと絵を描きながら暮らしています。
 その小さな町に、湖のあちら側から、親子が二人移り住んできます。凍った湖を歩いて渡ってきたのは、母親のイルマと娘のメリでした。
 妻と聴覚を失って以来、ふさぎ込んだり、他人を拒んだりしたわけではないけれど、植田さんの心はしぃんとしていて、閉ざされていました。それは絵にも表れていました。しかし、メリが遊びに来るようになってから変わります。鳥や生物を愛し、勇敢で利発なメリ。植田さんの心は徐々に溶かされ、忘れていた世界をとりもどします。

 やさしい植田さん、利発なメリ、元スケート選手の定食屋のおばさんや、武骨だけれどいい人であるオシダさんなど、出てくる人が素朴で嫌なところがないところがいい。厳しく危険を孕む一方で、雪国の美しい光景や動物たちの描写がとても綺麗で、植田さんの「絵」も暖かい。雪に飲まれたメリの回復を祈って植田さんが描いた、小さな町の冬の情景は、美しい景色と、鳥や鹿などの動物と、遊びまわる女の子たちという、綺麗で楽しい絵です。植田真さんの絵で、最後に載っています。

 たまにはこういう複雑でもなんでもない、暖かい話もいいですね。
 クリスマスシーズンや冬にぴったりの素敵な本です。

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