「シナン」
神を空間に描き出した、オスマン帝国の最高建築家・シナンのロマンの物語
(私の中では)「陰陽師」の夢枕獏さんが書いた「イスラム」の歴史小説。面白いのだろうかととりあえず買ってみたけれど、2007年最後にしていい話に出会えたと思った。
「シナン」は(「スィナン」ともカタカナ表記される)オスマン・トルコの建築家だ。イスタンブールには「聖ソフィア寺院」という非常に有名なモスクがある。しかし、このモスクはオスマンではなく、前のビザンツ(東ローマ帝国)時代に作られた正キリスト教会の聖堂である。イスラム文化に入って1,000年もの間、この聖ソフィアを超える大きさのモスクが作られることはなかった。
シナンはオスマン帝国が最大に反映したスレイマン1世の時代に現れた建築家で、50歳を過ぎてから100歳で死ぬまでの間に、477もの建造物を建てたらしい。スレイマンのスレイマニエ・ジャーミーは最高傑作と呼ばれ、セリミエ・ジャーミーは、オスマンで初めて聖ソフィア寺院を超える大きさのジャーミー(モスク)となった。そのような素晴らしい人物と建物があったとは知らなかった。早速グーグルアースで旅に出てしまった。
夢枕獏が書くシナンは、偉大なる聖ソフィアには「不完全で神がいない」と感じている。ヴェネチアで見た、素晴らしいサンマルコ寺院にも聖ソフィアも、偶像で満ち溢れ、人間の祈りばかりが強調されている、と。聖ソフィアを超える神が存在するジャーミーを作ることがシナンの目標であり夢だった。
1.5巻分は若い兵士時代のシナンと、スレイマン1世の時勢が描かれる。スレイマンと宰相のイブラハム、シナンの同士ハサン、詩人のザーティなどの人物が現れる。オスマンのヨーロッパ侵略や、スレイマンの妻のロクセラーヌの陰謀など、政治の舞台が大いに描かれる。建築と関係がなさそうに見えるこの歴史背景たちだが、最後に必要なものだったと気づかされる。
戦争中に砦や橋、船を驚く手際で完成させたシナンは50を超えてから主席建築家になる。彼の建築物は「複合建築(コンプレックス)」であり、モスクを中心に街の主要な要素をその周りに作るという、現代みたいな素晴らしい都市計画でもあったという。彼の夢である、聖ソフィアを超える完全なジャーミー造りは、オスマンの繁栄を示し、いつしか、そこに祀られることになるだろうスレイマン大帝の夢でもあった。しかしいくら金を積まれてもシナンは造れないと言った。それほど聖ソフィアは偉大で完璧な建造物だったのだ。そんな中で完成させたスレイマニエジャーミーは、大きさ以外は聖ソフィアに勝る、神の存在するジャーミーだった。
ジャーミーをめぐってスレイマンとシナンの間に交わされるやりとりは、まさに男のロマン。死を覚悟した、弱り、疲れ果てた大帝に、聖ソフィアを超える大きさのジャーミーを作ると約束するくだりは感動ものである。最後は夢を追い、働き、手を動かし生きてきたシナン。その間に、ハサンやイブラハム、スレイマン…と多くの人が去っていった。その時間の重みと寂しさが、前半の描写があったからこそ際立っていた。心に響くいい作品だった。
夢枕 獏 / 中央公論新社(2007/11)
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(私の中では)「陰陽師」の夢枕獏さんが書いた「イスラム」の歴史小説。面白いのだろうかととりあえず買ってみたけれど、2007年最後にしていい話に出会えたと思った。
「シナン」は(「スィナン」ともカタカナ表記される)オスマン・トルコの建築家だ。イスタンブールには「聖ソフィア寺院」という非常に有名なモスクがある。しかし、このモスクはオスマンではなく、前のビザンツ(東ローマ帝国)時代に作られた正キリスト教会の聖堂である。イスラム文化に入って1,000年もの間、この聖ソフィアを超える大きさのモスクが作られることはなかった。
シナンはオスマン帝国が最大に反映したスレイマン1世の時代に現れた建築家で、50歳を過ぎてから100歳で死ぬまでの間に、477もの建造物を建てたらしい。スレイマンのスレイマニエ・ジャーミーは最高傑作と呼ばれ、セリミエ・ジャーミーは、オスマンで初めて聖ソフィア寺院を超える大きさのジャーミー(モスク)となった。そのような素晴らしい人物と建物があったとは知らなかった。早速グーグルアースで旅に出てしまった。
夢枕獏が書くシナンは、偉大なる聖ソフィアには「不完全で神がいない」と感じている。ヴェネチアで見た、素晴らしいサンマルコ寺院にも聖ソフィアも、偶像で満ち溢れ、人間の祈りばかりが強調されている、と。聖ソフィアを超える神が存在するジャーミーを作ることがシナンの目標であり夢だった。
1.5巻分は若い兵士時代のシナンと、スレイマン1世の時勢が描かれる。スレイマンと宰相のイブラハム、シナンの同士ハサン、詩人のザーティなどの人物が現れる。オスマンのヨーロッパ侵略や、スレイマンの妻のロクセラーヌの陰謀など、政治の舞台が大いに描かれる。建築と関係がなさそうに見えるこの歴史背景たちだが、最後に必要なものだったと気づかされる。
戦争中に砦や橋、船を驚く手際で完成させたシナンは50を超えてから主席建築家になる。彼の建築物は「複合建築(コンプレックス)」であり、モスクを中心に街の主要な要素をその周りに作るという、現代みたいな素晴らしい都市計画でもあったという。彼の夢である、聖ソフィアを超える完全なジャーミー造りは、オスマンの繁栄を示し、いつしか、そこに祀られることになるだろうスレイマン大帝の夢でもあった。しかしいくら金を積まれてもシナンは造れないと言った。それほど聖ソフィアは偉大で完璧な建造物だったのだ。そんな中で完成させたスレイマニエジャーミーは、大きさ以外は聖ソフィアに勝る、神の存在するジャーミーだった。
ジャーミーをめぐってスレイマンとシナンの間に交わされるやりとりは、まさに男のロマン。死を覚悟した、弱り、疲れ果てた大帝に、聖ソフィアを超える大きさのジャーミーを作ると約束するくだりは感動ものである。最後は夢を追い、働き、手を動かし生きてきたシナン。その間に、ハサンやイブラハム、スレイマン…と多くの人が去っていった。その時間の重みと寂しさが、前半の描写があったからこそ際立っていた。心に響くいい作品だった。
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