「風に舞いあがるビニールシート」
「大切な何かのために懸命に生きる人たちの6つの物語」と表題にあるとおり、仕事や学問に打ち込むような人々を描いた短編集。図書館で見つけて借りた。よく名前は拝見するけれど、初めて読む作家さんだ。
6つに共通して思ったのが「詳しい」ということ。「備前焼」であるとか、仏像修理師の仕事、「徒然草」の文学的視点、保健所で殺される犬について、UNHCRの活動と葛藤、など、出てくる人々の職業や活動についての描写がとても詳しいのだ。もしかしたら過剰なのではと思えてくるくらいだったけれど、なんだか勉強になるなと思った。背景があってこそ分かるような気もする。森さんは児童文学も書かれているので、雰囲気をつかむ大人の小説というより、しっかり書き表していく児童向けの要素が出てきているのかなぁと深読みをしてみたり。違うか。
おもしろかったなと思ったのは、のは胸のうちにはかなりの勉学意識を滾らせている青年を描いた「守護神」、ちょっと泣きそうになったのはUNHCRで働く女性を描いた「風に舞い上がるビニールシート」。
いろいろな職業・立場の人を描いた短編が最近は好きです。あんまり惰性で生きている人になると苦手ですが、がんばろうが、怠けようが、凹もうが、深入りせずに読めるところがいいですね。 「器を探して」
人気パティシエのヒロミの秘書として働く弥生。クリスマスのその日、備前焼の器を探して欲しいと岐阜に行く羽目になってしまった。長い間カリスマ性があり、前へ突き進むヒロミのために身を粉にして働いてきた弥生は、ヒロミと恋人のどちらを選ぶのか選択を迫られてしまった。
最後にヒロミは関係なく、弥生なりの仕事への信念があることが伺えた。
「犬の散歩」
エリは、保健所に送られる犬を少しでも救おうと、里親を探すボランティアをしている。そのためにスナックで夜働いたりもしているほどだ。
犬のシビアな現状と、それに対する覚悟を伝えている前半。後半は、子どものいないエリ夫婦と夫の両親との間を犬が溶かしてくれるというハートフルな内容になっている。
「守護神」
アルバイトをしながら大学の文学部に通う裕介(30)は、一見他力本願の怠惰な学生に見える。彼は「社会人学生の守護神」と呼ばれるニシナミユキに論文を書いて欲しいと頼んでなぜか断られ、今年こそ書いてもらおうと張り切っている。
読んでいくうちに裕介は怠惰な学生ではなく、とんでもない学生だということが分かってくるところが面白い。
「鐘の音」
年をとって再会した二人の男。二人はかつて仏像修復師として同じ職場で働いていた。仏像に心から心酔するが、不器用で周囲、特に支障の松浦と折り合いが悪かった潔。とある仏像の修復のときに松浦との仲が決定的になり、結果修復師の道を諦める潔の話が描かれている。師匠の松浦は本当に潔を認めていなかったのか?
「ジェネレーションX」
40歳目の前の健一は、取引先の「新人類」石津と営業車で移動している。移動中、隣で携帯でやたらと様々な友人と連絡をとりあう石津にちょっとイライラしながらも、口うるさいおじさんになりたくない健一は我慢することにする。よくよく聞くと、石津は仲間と草野球の約束を取り付けようとしているようであるが・・・。青春を思い出したおじさんのお話。
「風に舞いあがるビニールシート」
里佳はUNHCRに勤める「現地(東京)採用の一般職員」。昔の夫であるエドは、難民のいる国の現地で死んでしまった。エドの死から立ち直れない里佳がエドとの日々を振り返る。「風にまいあがるビニールシート」のように、すべての運命を吹き飛ばされ続ける難民達を見捨てることができないエドと、それは分かるが、夫としてエドにそばにいてもらいたい里佳の気持ちはすれ違うばかりだった。難民支援という仕事に当たりながらも、フィールドには出なかった里佳が、エドの死をきっかけに、エドと難民支援にもう一度向き合う。
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